歴史的大発生をみたカメムシの被害

本年のカメムシの大発生は未だに記憶に新しい。カメムシの全国的な大発生は1973年及び1975年以来の20数年ぶりの事である。
カメムシの種類や生態については、未知の部分も多いが、この大発生を機会に発生抑制や防除技術も確立されるだろうと甘い期待を抱いているのは私だけだろうか?

1 なぜこんなに大発生したのか?
  カメムシは多種類の餌となる植物を移動しながら食し、生活をしているが、それらの植物には増殖が可能な本当の寄生植物と、餌にはなるが増殖はできない植物とに分けられる。
 特に、一部の静岡県あたりで最もよく見られるチャバネアオカメムシなどは、増殖用の餌は、スギ、ヒノキの毬果(種子)である。スギの場合、夏の気温が高いとその翌年の花粉の飛散が多くなり、毬果が豊富になることが多い。
 この2年の夏の異常な高温は、カメムシの増殖にとってはまさに最高の条件であったと言える。
 チャバネアオカメムシなど一般のカメムシは6月下旬頃から繁殖しはじめるが、昨年は豊富な餌(毬果)に恵まれて多くの幼虫が発生し、しかも幼虫の期間中に台風や長雨が少なく、幼虫死虫率がかなり低かったと考えられる。
 この為、夏から秋にかけて、これらの植物で育った第1世代の新幼虫が大発生したのであろう。そして、異常な高密度のまま越冬したわけである。
 ちなみに、越冬期間中における成虫の死虫率は5〜35%程度であると言われているが、暖冬による死虫率の低下も手伝って春先の大群飛来となつたようである。

2 種 類
 カメムシの所属する半翅目(Hemiptera)は、細長い管状になった吸収式の口器をもつ不完全変態の昆虫で、この仲間は世界に55、000種が知られており、昆虫の中では、甲虫目、鱗翅目、双翅目に次ぐ大きい群の中に分類される。したがってその生態は多種多様であり、生息域は陸上はもちろん、地中、水中、さらには海中に住むものまで多岐にわたっている。
 半翅目には、翅の退化したものも少なくないが、一般に4枚の翅をもち、その翅の構造によって大きく2つのグループ、すなわちセミ、ウンカ、ヨコバイなどのように、前翅全体が均一な膜質でできた同翅亜目(Homoptera)と、カメムシのように前翅の基半が革質、先半が膜質となった異亜翅目(Hoteroptera)に分けられている。
 カメムシ類(異亜翅目)は、触覚の長短、頭部の感覚毛の有無、生活様式の違いなどにより、水生カメムシ群(タガメ、タイコウチ)、両性カメムシ群(アメンボ、ミズカメムシ)及び陸生カメムシ群(サシガメ、ヘリカメムシ)の3群に分類される。

3 防除方法
昨年の大発生の主要な種は、『ツヤアオカメムシ、オオホシカメムシ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ、ミナミアオカメムシ、アオクサカメムシ、オオホシカメムシ、オオクモヘリカメムシ』等であるが、特にその発生源はスギ、ヒノキの球果であり、その大発生の原因は奇しくもスギ花粉症の大発生と一致する。
 つまり、戦後からの日本農政が林業と切り離されて行われて来た結果、雑木林はスギ・ヒノキであり、害虫防除は農薬でという縦割り行政の副産物であるような気がする。
 いわゆる『総合防除』という考え方で、害を減らして行かないと日本の農業は、ますますコストアップをせまられる事になる。
 現在の防除法は、性フェロモンを使用したトラップで採取する方法や、ライトトラップを用いて採取防除する方法が行われているが、大発生時には殆ど効果が無い。
 また、合成ピレスロイド系農薬による防除も有効だが、これは薬液が害虫にかからないと効果が無い為、常に飛来しつづけるカメムシには効果がないというより、作物を食べる人間にその薬剤の害が心配になる。

産業革命以来、私たち人類は飛躍的な発展を手にしてきた。日本もその中では例外ではない。しかし、それら全産業の放出する二酸化炭素は地球規模の温暖化をもたらし、そして世界的な異常気象を引き起こしていると言われている。そして、その異常気象による、スギ花粉の増加、低迷を続ける日本林業の中でのスギ、ヒノキの増加、そしてそれらを餌とするカメムシの増加があり、そのカメムシが新たな害虫として、問題になつた。なにかふと空しいものを感ずるのは私だけだろうか。


チャバネアオカメムシ

スギ・ヒノキの球果を好んで食べる代表的なカメムシである。
チャバネアオカメムシである。
体長10〜12mm。広食性でサクラ、クワ、ミズキ、ヒノキ、スギ、タラ、等47科117種の植物に寄生する。
成虫は灌木の茂みの中で越冬し、異常発生した時は、ミカン、ナシ、カキ、ブドウ、ウメ、ヤマモモなどの果実を食害する。







クチブトカメムシがシロイチモジヨトウを補食している所。

体長12〜16mm。
山間地の草むらや樹林などに生息すし、マツケムシ、モンシロチョウ、チッチゼミ、カブラハバチ、ハムシなどの幼虫や小さい昆虫を補食する。
成虫で越冬する。
一部研究機関で、クチブトカメムシ類の天敵としての研究がされているが、実用化には遠い。


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